exlibris

Whatever you do, Whatever you say, Yeah I know it's alright

日の名残り

中央公論社 カズオ イシグロ,  土屋 政雄 (訳)

初めての作家の作品で、これほど静かに美しい物語を読むことができて、ほんとうによかった。

執事であるスティーブンスの一人称で語られるイギリスの田園風景や、屋敷についての描写は、少々物足りなさを感じるのだけど、それもまた作者の意図したものなのだろうと思う。

そして、イギリスの公爵から若いアメリカ人に仕えるようになって、ジョークを身に付けようと努力するスティーブンスには、なぜか笑いを誘われる。

ミス・ケントンとの別れのシーンでは、わたしはなぜか「マディソン郡の橋」を思い出だした。似ているというよりも、マディソン郡が安っぽいソープオペラに思えて、これこそつまらない言葉だけど、「大人の恋愛小説」だと感じた。(でもマディソン郡の屋根付き橋はわたしを魅了している。日本にも高知の山のなかに屋根付き橋があるそうで、一度ぜひ見てみたい)

カズオ イシグロは長崎生まれで、幼少の頃に海洋学者の父の都合で1960年頃イギリスに渡り、30年間一度も日本に来たことがなかったそうだ。アイデンティティ・クライシスに陥ることもなく、いくつかの文学賞を受賞した後、イギリス国籍を取得したとある。他の作品もぜひ読んでみたいと思う。

2012年のオリンピックの開催地がロンドンに決まって、G8サミットがイギリス北部で行われている最中の昨日、現地時間で午前9時頃、ロンドンの中心街での同時多発テロ(すでに断定されているようなのだけどいいのかな?)が起きた。死者が数十名、負傷者は数百名にのぼっているそうだが、まだわからないことも多い。

同じことが東京で起こってもなんらおかしいことはないのだと思う。ほんとうに残念としか言いようがなく、わたしには手も足も出ない。